こんにちは、暑くなってくるとPCパーツの温度が気になるゆびきたすです。
仕事用に2022年自作したスリムなケースのPCのストレージ冷却に挑戦。
M.2 NVMe SSDは高速であるがゆえに環境により高負荷時に発熱しやすいのが最大の難点です。そこで手軽な対処方法としてNVMe用のヒートシンクを取り付けすることが挙げられます。
およそ5年ほど使用していたのが「Aquacomputer kryoM.2 micro passive heat sink for M.2 2280 SSD」という製品です。下写真のように何の変哲もない製品ですがダントツ高評価だった製品で、実際に冷却性能は満足できるものでした。
最近自作したパソコンは大きく性能向上した半面、全体的に発熱も大きくなり冷却が厳しい環境になりました。ストレージの故障は代替が効かない大切なデータがあり、とても気を使います。電化製品の故障は本当に突然です。
そこで夏が近づきパソコン内の温度も気になる中ストレージの熱対策を行ってみます。
今回のサーマルライト(ThermalRight)HR-09 2280 PROは2022年夏に登場してヒートシンクの大きさで話題となった製品。
この記事では製品の特徴や効果、取り付け方法や注意点など、購入の判断に役に立つ情報をできるだけ詳しく解説します。
結果的な話として、購入に値するのか?という疑問について
以上のことから「M.2スロット周りに必要なスペースがあれば」という条件付きですが激しく「買い」であるという結論です。
サーマルライトとHR-09 2280 PROの特徴
HR-09 2280 PROはCPUクーラーで人気の台湾・ThermalRight 社が製作販売する製品です。
同社の情報としてネットで調べても詳しい会社概要があまり出てきません。
公式ウェブサイトは今どきSSLなどの暗号化すら施されていない、少し不思議な会社。
さてHR-09はm.2SSD用としては圧巻の外見ですが、奇をてらわず冷やすことに対して基本に忠実な仕様です。大きいながらも幅(厚み)がかさばらないようにファンレスとして、ヒートシンク性能で冷却するタイプです。
外箱を開けた構成は以下の写真の通りで、本体以外は取り付け説明書と保証書各1枚。
底面のコの字プレートも合わせてピカピカ鏡面仕様です。
ヒートシンクは0.4mm厚で先が先鋭なので取り扱い注意。
底面プレートはSSDの片面実装・両面実装に対応するため長穴仕様。
サーマルパッドはヒートシンクベース側が1mmで、底面プレート側が0.5mmです。
並行輸入品も多くみられるのもThermalRight製品の特長ですが、国内正規代理店はディラックです。
公式を探した感じではヒートパイプやベース部分の基材などの詳細なデータなどは発見できませんでした。
※ベース部分に関して一部海外サイトでは「ニッケルメッキの純銅」などの記載もありましたが真偽は不明。
サポートに質問して約1ヶ月経ち質問への返信を頂きました(長すぎて忘れてました・笑)。材質は「アルミ材」です。
仕様 | |
---|---|
放熱フィンブロック | フィン33枚/厚さ 0.4mm / フィン間隔 1.8mm |
ヒートパイプ | 6mm×2本 |
外寸/重さ | 長86 x 幅 24 x 高74 (mm) / 90g |
幅:実際に外寸を図ると、底面プレートの幅は実寸23.8mm、ビスの頭をの飛び出しを入れて約24mmほど。
長さ:外観ではベース部分からヒートパイプが約14mmはみ出しています。
ヒートシンク・ベース部分の長さは74.5mm。計算上そのヒートパイプ部を合わせた最大長の実寸は86.5mmということになります。
因みに底面プレート長はおよそ68mmでした。
そして気になる高さはデフォルトの状態で実寸高69.6mmです。
(実際には底面プレートのネジ穴が長穴仕様になっているため若干前後)
ベース部分下端からヒートシンク上部までが65.5mm。
底面プレート部。
ベース側のサーマルパッドは約1mmです。すでに設置されたNVMe上面から実寸でおよそ66~67mm以上のクリアランスが必要になる計算です。
以上HR-09 2280 Proの簡単な仕様ですが、SSD冷却用として見ると圧巻の大きさです。 これで冷えないわけがないと言わんばかりの迫力です。
装着するとSSDがほとんど見えなくなります。
M.2規格のSSD対応
ThermalRight HR-09 2280 PROは、熱を効率的に拡散することでM.2 SSDの温度を大幅に低下させます。SSD温度の低下により、ストレージ寿命が延びるだけでなく、データの安全性や安定的な読み書き速度の維持にも寄与します。特にゲーミングや動画編集など高負荷な作業を行うユーザーには、性能の低下を防ぐために役立つパーツの1つと言えます。
2023年現在M.2規格のSSDにはおおむね5種類もの仕様が存在します。
実際は更に多くの種類がありますが、市場で出回っているのものは「幅22mm」を共通としたものです。
- Type 2230(ストレージよりも拡張カード的なものに使用される)
- Type 2242
- Type 2260
- Type 2280(もっとも市場で流通している仕様)
- Type 22110 /エンタープライズ向け(Synologyなど)
このうちRH-09シリーズが対応するのは製品名にもあるように全長が80mmタイプのみとなります。またチップ搭載の方式では片面実装・両面実装ともに対応しています。
セットアップ:取り付け簡単 HR-09 2280 PRO
ThermalRight HR-09 2280 PROは、NVMeのM.2 SSDの2280規格に対応しており取り付けも簡単ですが、巨大サイズから周辺パーツとのクリアランス、特にCPUクーラーやグラフィックボードに挟まれる位置への取り付けは神経質にならざるを得ません。
まずはSSDをヒートシンクに組み込みします。
下画像のように底面プレートの穴は長穴になっていますが、SSD自体の厚みが異なる片面・両面実装への対応でしょう。
同社は高性能なサーマルパッドでも有名です。使われているパッドについて詳細なデータが見つかりませんでしたが、Amazonの商品説明ではサーマルパッドが【Extreme Odyssey II】と記載されています。Odysseyシリーズは実に高価なサーマルパッドなので、本当だったら嬉しいですね。
しかし実機を触ってみて「本当にOdysseyシリーズなのかも?」と思われる点があります。OdysseyシリーズのThermalパッドのユーザーレビューの中で
- 粘土みたい
- ポロポロ崩れやすい
などの意見が見られ、実際手元にあるHR-09に貼り付けられているパッドの特徴と非常に似ていました。
よく見かける通常のシリコン製のサーマルパッドとは材質が全く異なります。
取り付けはサーマルパッドとSSDのチップの位置を見ながら挟み込んでビス止めするだけです。
底面プレートには前後の向きで形状の違いはありませんでした。
下の写真はは組み込みに失敗した例。ヒートシンクベースの丸いネジの切り欠きとSSDの切り欠きがピッタリ合わせすぎてネジ止めできません。
ヒートシンクへの組み込みで注意したいのは、M.2固定用ネジがSSD本体の方に掛かるようにヒートシンクベースの切り欠き先端を若干後ろに調整します。
万が一失敗例のようにここの切り欠きをピッタリ合わせてしまうと、M,2用のネジ長が短いためベースの厚み分ネジ穴に届かなくなる可能性があります。
無駄な丁寧さとはこのことでした。
CPU直結レーン(CPU装着位置の真下)にSN550(OS)、マザーのチップセット側レーンにSN750(データ用)という構成です。この間にロープログラフィックスカードGTX1650LPが鎮座しますが、これはSN750にスッポリ覆いかぶさります。
GTX1650LPを取り外した状態。
固定はワンタッチで差し込むだけの固定方法でm.2固有の小さなネジが不要。 (なおASUSで有名な【M.2 Q-LATCH】ではない)
しかしヒートシンクベース自体の厚さが加わるため、輪っか部分が引っかかりやすくなり非常に止めにくいです。
ネジ式に変更するのが良いでしょう。
設置するm.2端子の位置にもよりますが、CPUクーラーとグラフィックスカードに挟まれる位置はかなりてこずります。
今回のASUSマザーの場合、M.2の固定がネジではなくワンタッチで押し込む樹脂タイプだったので幾分マシでした。
今回はSSDのネジ固定用の切り欠きとヒートシンクの切り欠きを少しズラして、ワンタッチ樹脂固定具が奥まで刺さりやすいように調整しています。
GTX1650LPのバックプレートとのクリアランスはわずか2mm。
またM.2-SSDは片側はソケット、片側は1か所の差し込み部品のみで支えられます。
手で触ると分かりますが、明らかに固定が弱く上下に動きます。
下へ下がってくることを抑えるため、バックプレートとフィンの間に耐熱のゴムシートなどを挟んで重い部分を支える構造にした方が良いですね。
厚さ2mm程の難燃性の素材が良いでしょう。
簡易的ベンチマーク結果
温度変化を見るためベンチマークソフトを走らせました。
主要仕様は以下の通り
- ケース:INWIN IW-BL672 E Black 電源なし MicroATX
- CPU:Intel Core i5-12400
- CPU空冷クーラー:Noctua NH-L9i-17xx NH-L9I-17XX
- マザーボード:ASUS PRIME B660M-K D4-CSM
- メモリ:TEAM ELITE+ TPD432G3200HC22DC01-EC/DDR4-3200 32GB
- グラフィック:ASUS GTX1650-O4G-LP-BRK(ロープロファイル)
- SSD:WD BLUE M.2 NVMe SN550 1TB x1(OS)
- SSD:WD BLACK M.2 NVMe SN750 500GB x1(VMWare)
- SSD:WD SATA BLUE 1TB(データ)
- 電源:玄人志向 80Plus Gold 300W TFX電源 KRPW-TX300W/90+
- ケースファン:Noctua NF-A8-FLX ×1
ケースはMicroATX、いわゆる【スリムケース】で、内寸は物差しで測った感じ最大80mmくらいまでなら組み込みできそうです。このケースは縦置きの場合、底面に80mmの【排気】ファンが付属しています。
排気ファン近くにグラフィックカードがあり、ケース内に内排気させる構造でエアフロー的にかなり厳しいものがあります。実際ストレージのアイドル状態の温度は、もっとケースの大きいゲーム用途のパソコンよりもかなり高めです。
使用ソフトはベンチマーク用にCrystal Disk Mark(v.8.0.4)、温度表示にCrystal Disk Info(v.8.17.11)です。
テスト用のm.2 SSDは
- WesternDigital SN550 1TB
- WesternDigital SN750 500GB
の2機種です。当初OSディスクのSN550のみの予定でしたがSN750の方がベンチ結果が面白かったので掲載。
また普段は各SSDを以下のレーンに接続しています。
- CPU直結レーン側にOSディスクのSN550
- マザーのチップセット側レーンに特定ソフトウェア用SN750
SN750はグラフィックカードを装着するとほぼ見えなくなります。熱い熱気を発するグラフィックとマザー基板に挟まれ特に厳しいレイアウトです。ここには物理的にHR-09を搭載するのは不可能なため、純粋に高温になりがちなPCIe Gen4のSN750の温度を見るためM.2スロットを移動して検証しました。
いずれのテストも室温は26℃です。
元々発熱が少ないWestern Digiral SN550
まずWD SN550。 こちらはPCIe Gen3対応製品で特に高性能な製品ではないため、もともと発熱は大人しめです。
初めに何も装着せず素の状態で温度を確認します。
アイドル時は43℃です。
最大温度は書き込み時の61℃で正常な範囲。温度項目が赤くなっていますが、Disk Infoのアラート設定を60℃にしているためです。
ベンチマーク終了の直後はすぐに温度が低下し始めたので、想像よりも温度的な心配は少なそうです。
続いてThermalRight RH-09 2280 PROのアイドルの温度は43℃で巣の状態と変わりません。
ベンチ中の最高温度は47℃で、ヒートシンク無し状態と比べて14℃も低下。
負荷が高いほど効果を発揮します。
夏場は(常時クーラー使用で)室温が2~3℃ほどアップするとして、最大でも50℃台前半と考えれば問題は無さそうです。
負荷をかければそれなりの発熱 Western Digiral SN750
続いてSN750の検証。
こちらはSN550よりも速度が上の製品のため、SN550よりも発熱は大きい傾向です。 またGTX1650がかぶさっているため全く見えません。
内排気型のグラフィックのため、排気熱が思いっきりM.2 SSDを直撃している感もあります。
装着しているm.2スロットはGTX1650で覆われてRH-09が装着できないため、上側のCPU直結レーンの方へ移設して検証しました。
ノーマル状態での検証なのでKryo M.2ヒートシンクは外しています。
この2枚の愛大に元通りGTX1650を刺してベンチマークを回します。
まずアイドルは高めの49℃。エアフローが少ないのとPCIe Gen4 SSDの取り合わせだとこれくらいでしょうか。
…と思いきや少し使用するといつのまにか60℃超えになっています。
とくにこのディスクに負荷をかけていないのですが…
しかしベンチ中の最高温度は71℃。意外にも(期待した)サーマルスロットリングを起こすほどではありませんでした。
もしGTX1650の下の位置でベンチを掛けると…
マザーのチップセットレーン位置でヒートシンク無しかつグラフィックカードがそのままかぶさった状態です。
数秒で70℃代後半、最終的には80℃を超えてサーマルスロットリングも発生。
普段の使用状況ではこのレベルの負荷が掛かるとは考えにくいのですが、裸で運用するのは少し心配です。
ベンチ終了直後はゆっくり温度が下がります。SN550よりも温度の低下スピードが遅い印象です。
続いてRH-09 22580 Proを取り付けします。
アイドル温度からいきなり効果があり44℃で5℃のダウンでした。
ベンチ中の最高温度は58℃で【13℃】も低下しました。なお画像が55℃になっていますが、スクショを撮り忘れです…
(画像はベンチ直後のもの)
こちらも夏場の温度は最高負荷時でも60℃台前半だと考えられるので心配はなさそうです。
このCPU直下の取り付け位置であれば、という条件ですが…
以上から速度が早めのSSDの場合、やはりグラフィックカード下に設置できる薄型ヒートシンクの併用が欠かせません。
追記:グラフィックカードGTX1650LPの下にギリギリ入るファン付モデルのヒートシンク【ineo M4 C2600】を試してみました。
ベンチ中の最大温度は65℃で確かに効果ありでした。裸での運用比【-16℃】です。
なおファンはMAX 10,000回転で4pinPWM制御可能です。現在CPU温度連動のズサンな配線分岐で取り付けをしているので、個別にもっと回せば更に温度下げられると思います。しかし吸気ファンだとグラフィックの熱を更に吸って熱くなりそうです。
しかし温度が下がるのが釈然としません。ヒートシンクの放熱効果の方が高いからでしょうか。結果オーライです。
HR-09 2280 PROの注意点
特筆する注意点はありません。
もちろんトピックである巨大なヒートシンクは要注意なのでは見た目通りでもあります。
また実機で初めてわかる点としてサーマルパッドの素性を挙げたいと思います。
サイズとクリアランス
最大の注意点は、PCケースの空間や他のパーツとの干渉です。
マザーボードのM.2スロット位置や周辺パーツの配置によっては、取り付けが不可能な場合がかなりの確率であります。特に空冷式のCPUクーラーで大型のものを取り付ている場合はほぼアウトな気がします。
今回のスCPUクーラーは小型の95×95mmヒートシンク採用のNoctura NH-L9i-17xxでかなり小型なことが幸いしてか干渉などは一切ありません。
基本的にはM.2 固定ネジを中心として幅24mm以上、そしてSSDスロット側はヒートシンクが14mmはみ出ている部分の範囲内に干渉するものがないことが必須条件でしょう。マザーボードのVRMにヒートシンクが付いているものなどは相当気を付けて下さい。
事前にPCケース内のスペースやレイアウトを確認し、問題がないことを確認してから購入することをおすすめします。
サーマルパッドの貼り直しは事実上不可能
検証のため何度か取り付け・取り外しを行いましたが、例えばASUSやGigabyteマザー標準のパッドと比較すると明らかにクッション性が乏しく硬い印象。
また今回は検証のため何度も取り付けと外しをしたので傷みが発生してしまいました。そっと触ると質感はほぼ粘土。 そのため剥がそうとしても端や角がまず浮きません。いきなりポロポロ剝がれてしまいます…
そこで同じThermalRight製のサーマルパッド(VALOR ODINとOdysseyII)を購入して、オリジナルの方は思い切って爪で擦ると…
こねてみるとまさに粘土でした…
通常は取付・取外しを頻繁に行うことはありませんが、万が一剥がしたりしてしまうとリカバリは困難です。
シリコン製など一般的なサーマルパッドの方が扱いやすいですね。
まとめ
発熱を最大限押さえたい場合は2.5インチケースのSSDで充分ですが、煩わしい配線がなく薄くてコンパクトなM.2 SSDの魅力は大きいです。特に今回のスリムなパソコンでは配線の煩わしさから多少解放されるのはメリットです。
ただ小さくて高速であるがゆえ、温度は概して高めになってしまいます。
ケースのエアフロー状態やM.2 SSDの搭載位置によっては何かしら対策の必要性を感じることでしょう。
今回紹介したThermalRight HR-09 2280 PROは、高性能な冷却効果でM.2 SSDの温度を効果的に抑えることができる優れた製品です。
高い熱伝導性を持つ材質(OdysseyII?→Extreme Odyssey IIで確認済)により、長時間の高負荷作業でも安定した性能を維持することが可能です。ただし取り付け時にはPCケースの空間や他のパーツとの干渉、貼り直しの効かないサーマルパッドなどには注意する必要があります。
大迫力のHR-09 2280 PROにより冷え冷えなパソコン利用環境を手に入れることができるでしょう。
M.2 NVMe SSDを使ってみたい、でも温度が心配。 そんなときはHR-09 2280 PROを冷却パーツの候補として考えてみてはいかがでしょうか?
きたる暑い夏に向け冷却はしっかりと!
では!
サポートからの返信
材質やサーマルパッドの種類をどうしても知りたかったのでサポートへメールしていたものに返信が来ました。
前述のように海外サイトなどではメッキ加工された銅プレートなど「本当なのだろうか?」みたいな情報もありましたが今回ハッキリ分かりました。
・使われているサーマルパッドは「Extreme Odyssey II」
・受熱を担当するベース部はアルミ製(割と一般的なものでした。価格通りかなと)
参考にしてみて下さい。
<2023年06月15日追記>
※中国の代理店が販売する並行輸入品なら更に割安です(箱のラベルからThermalRightのサイトで純正品の可否チェックも可能)
商品説明欄が怪しい感じですが…